罪とデブ。

時にその過剰な体重が、命取りになる時もある。


その日ぽろちと配偶者が外出から帰宅すると、日本ではなかなかお目にかかることができない'ダイナマイトなバディ'が、フラットの入り口をその巨体で塞いでいた。'ダイナマイトなバディ'などとオブラートに包んではいるが、要は稀に見ない肥満体型、かなりのデブである。

彼女は、先日お伝えした「地獄からきたパンプス」の持ち主である。フラット全住民を震え上がらせたヒョウ柄のパンプスは、未だ健在。悪臭の根源を履いた彼女は、フラット入り口にもたれ掛かりながらタバコを吸っていた。太り過ぎたが故に肉割れした見るに耐えない太もも。そして、ムッチムチな上にシミだらけのはち切れそうな腕。その惜しげも無く晒した豊満かつ怠慢なボディは、ぽろちと配偶者には眩しすぎた。

軽く挨拶してさっさとフラットの中に入ろうとしたが、彼女はドアの前から動こうとはしない。「今、犬にトイレさせてるから一服してるの。トイレ邪魔しちゃ悪いでしょ?」と言った彼女は、ぽろちと配偶者に「だからちょっと待ってね」と言い出したのだ。話し相手が欲しかったのかもしれないが、本来なら、というか考えるまでもなく普通ドアの前から動いて道を譲るだろう。だが、彼女はしない。やはり地獄のパンプスの持ち主は、普通の感覚を持ち合わせてないのだろうか…とぼんやり思った。

フラットの裏庭が彼女の犬のトイレスポットなのだが、何故だかその犬のウンチを彼女は始末しない。これも悪臭と同様、フラットの問題になっていた。そんなことを考えていると、トイレを終えた犬が戻ってきた。もちろん彼女は、犬のウンチを始末するわけもない。吸い終えたタバコを躊躇いもなくポイ捨てすると、お菓子がパンパンに詰まった買い物袋を3袋抱えて、フラットのドアを開けて中に入った。ぽろちと配偶者もそれに続く。階段を上りながら彼女は何かぺちゃくちゃ言っていたが、ぽろちと配偶者はほとんど聞いていなく適当に相づちを打っていた。家につくまで後少し。もう少しで、このデブとさよならできる。そう思っていた時だった。

彼女が、階段を踏み外したのだ。

あ、と思う間もなく、ぽろちの視界一杯に、激しく転倒した彼女のはち切れんばかりの巨体が飛び込んできた。それと同時に、ずしりと重い衝撃とタックルされて喰らった痛み。考えてもみて欲しい。階段を上がっている時に、前にいたデブが突然階段を踏み外して転がり、自分もその衝撃を喰らうのだ。デブの全体重でタックルされたぽろちは、当然ながら支えきれず、よろめいてしまった。そして、転倒。当然後ろにいた配偶者も巻き添えに。配偶者の場合はもっと悲惨で、デブとぽろちの2人分の体重をモロ喰らうという、状況になってしまった。

デブの下敷きになるという経験は、そうそうないだろう。

こうポジティブに考えようと試みたが、かなり痛かったし、デブに潰されたという件は、ぽろちと配偶者にとって、肉体的にも精神的にも深い傷となった。なんとか動こうにも、肝心の彼女が全く動かず、というか動けないようで、泣き喚くだけだった。ふざけんなよこっちが泣きたいよ…と思いつつも、気が動転した彼女を宥めていると、騒ぎを聞きつけた住民達がやって来て、助けてくれた。相変わらず彼女は泣いているだけ。念のため、住民の一人が彼女のために救急車を呼んだのだが、幸い特に異常もなく無傷だったようだ。

大きな巨体が担架で運ばれて行く姿を呆然と見つめながら、ふと、何かの破片が床に散らばっていることに気がついた。散乱した破片を辿ると、そこは階段。なんと階段の手すりが、バキバキに折れて無惨な姿へと変貌していたのだ。あの'デブ転倒事件'の衝撃で、階段の手すりが木っ端微塵になってしまったらしい。階段の手すりも、デブの体重までは手に負えなかったようだ。

今思えば何故あの現場を写真に収めなかったのだろう…と非常に悔やまれる。だが、やはりあの時は頭がついていかず、写真のことなんて一瞬も過らなかった。

地獄のパンプスといい、階段の手すりの破壊といい、彼女はなんと罪深いデブだろうか。これに懲りて少しでもスリムになるよう心掛けて欲しい。彼女が悪いのではない。デブが悪いのだ。デブは人を狂わせる。ぽろちと配偶者のモットーは、デブを憎んで人を憎まず、なのだ。


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2 Comment
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荷造りに苦戦しているがりたです(*_*)
配偶者のスーツケースが詰め込みすぎてとってもおでぶで…笑
手すり破壊とは、すさまじいですね…
怪我がなかったようでなによりです。

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荷造りお疲れさまです。おでぶなスーツケースだと、移動大変ですよね…。それに、荷造りしてもまたすぐに開封作業があるので、本当にお疲れさまです。お気をつけていらして下さいね!
手すり破壊はびっくりして呆然としました…。日本ではなかなか考えられないことが多々あるので、ある意味良い経験になってます笑

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